第294回 運動は苦手(後編)

中学時代までは部活で剣道をやっていることを書いたが、高校時代はさすがにつづけるつもりはなかった。もちろん将棋部があれば入りたかったが、自分の進学した高校には囲碁同好会はあっても将棋部はなかった。

ということで、その時どういうわけかテニスをやってみたくなりテニス部に入ろうとした。当時は軟式テニス部、硬式テニス部の両方がありどっちに入ろうかと迷ったあげく中学時代にテニス部だった友達に相談にいったところ、初心者だからいきなり硬式だと肩をこわすかもしれないし、お金もかかる。初めてだからということで軟式の方がよいのではということになった。

それで軟式テニス部に入部することになった。軟式テニスは基本ダブルスで行ない、当時はポジションが前衛と後衛があり終始専任でやることになっていた。自分はサーブが打て、ラリーができる後衛が志望であった。しかし元来の運動音痴のためか練習でお互いに球を打ち合う「乱打」といってラリーを継続することができない。相手が球を打って自分がその球を打ち返す。その球をまた相手が打ってという具合に交互に球を打ち返すことをいうのであるが、自分が行なうと2~3回くらいの往復で球をネットにひっかけるか、相手とは違う方向へ球がいってしまったりとうまく打ち返すことができずに終わってしまうことが多かった。そのため自分には後衛は無理ということになり、不本意ながら前衛のポジションになったのである。

部活に入った同期は自分の他に5人いたがそのうちの2人は高校から始めた初心者であった。そのうちの一人とペアを組むことになるが、実のところその相方は前衛希望であったのである。しかし自分よりラリーが長く続くという理由で希望とは異なり後衛になったのである。

お互いにやりたいポジションは違ってしまったが、ペアを組んでしばらくしたところいさかいが起こってしまった。

その相手からは「俺と一緒にペアを組んでいる時には本気でやってない。どういうわけだ」といきない突拍子もないことを言われ返答に窮していると、「分かったわ。もうお前とは組めん」と言われてあえなくコンビ解消となってしまった。その後、彼は別のペアと組み当初の希望通り前衛となった。

いさかいの原因は次のような理由である。練習ではもちろんいつも同じペアと組むのではなく、色々と組む相手を変えて練習をおこなっているのであるが、自分が彼以外とペアを組んだ時のことである。その時の相方は中学時代からの経験者でもちろん自分の当初の相方よりも上手でありラリーも長く続く。前衛である自分はそのため自分と対戦相手との何度も行きかうボールをみながら適度なタイミングでボレーやスマッシュなどといった前衛ならではの技を行なうことができたのである。

しかし初心者の彼と組んだ時はラリーが続かず、前衛としての動きがあまりできなかったのである。というか何もできないままに終わってしまうことが多かった。それがその経験者と組んでいる時はよく動いているようにみえ、初心者の彼と組んでいる時には自分は何もしていないように見えたのであろうと自分は推測した。

しかし、そのことを後からそのまま彼に言うのは彼が下手なことを間接的に言うことになってしまうため、気の弱い自分は結局のところ何も言えずにそのままお互いの関係も修復することもなく卒業に至ってしまったのである。

というわけで自分は軟式テニスでは3年間前衛をやっていたのであるが、テニスの花形ともいえるべきサーブができないまま終わってしまった。サーブは常に後衛が行なうので自分はサーブを一度もする機会もなく終わってしまったのである。テニスをやっていたのにサーブができない、ラリーもまともに続けることができないのである。

それでは前衛ならではのボレーやスマッシュはどうかというと、前衛はもちろんコートの真ん中のネットの近くにいるため、相手の打ったボールに一番近い位置にいる。だから相手が至近距離から打ったスピードの速い球に対応しなくてはならないため正直怖いことが多い。特に相手がわざと前衛をめがけて狙った「前衛アタック」には超スピードボールが自分めがけて飛んでくるためいつも恐れながらプレイしていた。もちろんこっちを狙ってくるのだからそれを弾き返せばよいわけだが、それがとても恐ろしく場合によってはそれを見抜かれてしまい試合ではカモにされることもあった。

そういうわけでもし希望通り後衛だったらそういった恐怖から逃れられるし、何よりも楽しくプレイできるのではないかとも考え、練習を重ねたがなかなか上達はしなかった。試合でも相手のサーブを一度も打ち返せずに負けたこともある。同期の友達からは自分は普通の人よりも成長が遅いと言われたくらいである。

というわけで高校時代の部活の思い出を書いてしまったが、運動の苦手な自分があえて中学高校と運動部を選んだというのは自分でも意外であった。特に高校ではこれまでとは違い自らやりたいスポーツの部活を選んだわけだがあまり芽がでなかった。

しかし運動はダメでも学業ではやった分だけ成長できるので自分にはあっているのかとも思った。同じ努力でもスポーツでは成果が下の方であるが、学業では一応学校内では上にいることが多かった。

自分の向き不向きをよく分かっただけでも中学高校と運動部を選んでよかった。もともとインドア派のじぶんではあるが、やはり運動部だと組織の先輩と後輩との礼儀や関係性なども学べることが大きい。もし運動部ではなかったらそういったことは身につかなったと思う。

学校は勉強するところである一方、集団生活をする上での社会性や人間関係を学ぶ場でもある。自分としては、自分にはこれまでに足りなかった団体での一般常識を習得できただけでも大きかったように思う。

今の時代、学校の部活をやらない人も多くなってきているが、やはり勉強以外でも同じ年齢同士で学べる場をもつことは将来大きな糧となるので自分としては経験しておいた方がよいと思う。自分も今思えばその時だけしか得ることののできない貴重な経験ができてよかったと思っている。

運動は確かに今でも苦手ではあるが、苦手であるといった一方的な見方だけにとらわれるのではなく違った方向からも視点を変えて見てみれば得るものもあると思う。

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