第69回 子供の顔

今日は行きつけの歯医者で歯科検診を受けてきた。政府の方針でこれから国民皆保険で歯科検診がとりいれられるそうである。歯は人間にとって長生きしていくためには大切にしなければならないもので歯が悪いと健康そのものをそこねてしまう。健康診断と同じで定期的に歯の検診とその治療をおこなっていくことはとても大事なことだと思っている。自分はそれよりも先んじて自主的に受信してきているわけであるが理由は簡単で後になって痛い思いをしたくないからである。

思えば歯科検診が毎年あったのは小学生の頃だけだったのでもちろん大人になって歯医者さんに行くという時にはどこか具合が悪くなってからであることがたいていなので、そういう時は決まってもう手遅れで痛い治療が待っているのである。

自分はそうならないためにも一年に一回は必ず行くようにしている。とはいっても一年のうちいつ行くかといったことが曖昧になってはいけないと思い、年の初めの1月中に行くと毎年決めている。

ごく最近に至っては半年に一度に頻度を増やしたために直近では昨年の7月にいったことになる。当然間隔が狭まるにつれ早期発見、早期治療ができるので虫歯になっている割合は一年に一回の検診の時よりも少なくなるわけであり、前回に至っては虫歯はなく歯医者さんに褒められたくらいである。

というわけで今回もその半年後に受診したためにおそらく虫歯はなく検査と歯のクリーニングだけで終わると思われた。ところが、なんとこともあろうにC2の虫歯が発見され治療しなければならないということになってしまったのである。

診察室ではたいていメインの先生が来る前に助手の女性の方が検診と歯の汚れを落とす作業をする。そのためいつも口の中を開けて歯のクリーニングである歯垢を落とす際には必ずといっていいほど「もっとふだんからきれいに歯を磨いておくべきだった、そうすればこんな痛い目にはあわなかったのに」と後悔の念にかられる。そう、治療が終わって鏡で歯垢のとれたきれいになった歯をみていると「よし、今後はきちんと歯を丁寧に磨いてこの綺麗さを維持しよう」と決心するのだがいつの間にか怠惰な性格がでておろそかになってしまう。

今回も口を大きく開けながら、キーンという歯医者さんでの独特な甲高い音を聞きながら身体全体がこわばっていた。歯の清掃をしている助手の方が自分にむかってもっと唇の力を抜いてくださいと声をかけているのが聞こえた。おそらく機械の音と歯垢を落とすときの多少の痛みとで身体全体に力が入って自分の顔が歪んでいるのであろう。特に足のつま先がかかとから垂直90度に立っており自分でもつま先まで力が入っているのが分かった。

小学生の予防接種の時はみんな多少は誤差はあるが目をつむったり、腕に力が入ったりして注射を打たれることに対してある種の緊張感があった。しかし大人になってワクチンの予防接種を受ける時にはそういうことはなく力を抜いて自然体でふるまえた。大人のふるまいである。しかしこと歯医者さんにおいてはもうすぐ50歳にもなる大の大人が顔をしかめて治療を受けている。はたから見ればまるで子供のようである。

このことが自分が歯医者さんで受信している時にいつもとても恥ずかしく感じていることである。もちろん自分の他には先生と助手の方しか周りにはいないため大勢の聴衆の目に触れることはないが、俯瞰してみてみるとなんとも幼いというかあの時の小学生のままの姿である。

そう、実は自分は小学生の時から、というのも歯医者さんに限っては今の歯医者さんでしか診てもらったことがない。

昔の話になるが小学生の時、学校で歯科検診があり診てもらった。昭和の頃だったので確か毎年6月頃ではなかったか。その時、学校に来て診てもらったのが今の歯医者さんの先生であり、後日その先生から治療を受けることになるのであるが、あろうことか歯の治療中に小学生の私は治療の恐怖に耐えかねてその先生の指を噛んだまま離さなかったことがある。しかし先生は怒ることなく笑って対応してくれその後、安心して治療をうけた記憶がある。それ以来自分は歯医者さんにはこの先生がいるところしか行かなくなった、というか行けなくなったのである。

毎年であるが、助手の方は毎回違う方が対応してくださるのであるが、先生に至ってはもちろん毎年変わらない。だから助手の方から先生に診察が変わった時になんともいえないような安心感があり、先生の手が自分の口の中に入った時には一気に身体の力が抜け、緊張がほぐれるのが自分でも分かるのである。もちろん今では先生の指を噛むことはない。治療は助手の方とは違って多少痛いと感じても「ちょっとしみる?」と必ず気遣ってくれて無理に手荒な治療をすることは決してない。

今もそうかもしれないが、子供の頃から一番行きなくないお医者さんは歯医者である。なぜなら治療が一番痛いと感じるからである。だから歯医者さんに限っては自分は自分の身を安心して預けられるところでしか治療を受けたくないという考えで今に至っているのである。

さて行きつけの歯医者さんであるが、その先生の息子さんは実は自分と同じ齢である。ということはそのお父さんである先生は自分の父親と同じくらいの齢ということになる。もうかなり高齢ではあるが、どうかいつまでも現役を続けていただいて自分の歯を毎年診て頂きたいと思っている。

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