第272回 尊富士に学ぶ

先日、大相撲春場所で新入幕初優勝を果たした尊富士について書かれた新聞記事を読んで学んだことについて書いていきたい。

記事の見出しには「横綱に初めて恩返し」と書かれていた。実は新入幕の尊富士の兄弟子は現在一人横綱の「照ノ富士」である。

実は千秋楽の前日の取り組みで、勝てば110年ぶりの新入幕初優勝となる記録がかかっていた尊富士だが、結果は負けてしまいその時に運悪く負傷してしまった。

いっときは肩をかしてもらわないと歩けない状況であり千秋楽は休場も考えたそうだ。ひょっとしたら星の差一つで後を追っている相手が敗れた場合には優勝もありえるかもしれいといった状況下である。しかしそうしようかと迷っていた時に兄弟子からかけられた一言が心に響いた。

「記録はいいから(ファンの)記憶に残せ。勝ち負けではなく最後まででることがいいんだよ。それで負けたら仕方ない」と背中を押され、一転して出場を決断したということである。

尊富士は横綱から「そう言われた後から、なぜか少しだけ歩けるようになった」といい、千秋楽の対戦でも立ち合いの変化をせずに正面からぶつかると決断した。

実は変化する立ち合いも考えたそうである。しかし自分の手で賜杯をつかみたかったため真っ向勝負を選んだとも述べられていた。

優勝後の尊富士のコメントで横綱から「俺の9回(の優勝)より、お前の優勝の方が嬉しい」と言われ、「横綱に初めて恩返しができた」と語っていた。このようなエピソードである。

ここから学べたことは、突然のアクシデントがあって心身的に迷いピンチに陥ったとしても、損得勘定といった考え方ではなく、自分にとってふさわしいありたい姿に向けて前向きな姿勢で取り組むということが一番大切なことではなかろうか。また人のアドバイスに真摯に耳を傾けて最終的にその通りやってダメだったとしてもしょうがないと割り切る気持ちの持ち方も参考になった。

何よりも後になって後悔しないように「受け身での選択」ではなく自分にとっての正しい選択(自分の手で賜杯をつかみ取るといった能動的な選択)をしたことが、多くの人の記憶に残り、110年ぶりの記録に花を添えたことになったのではないかと感じたのである。

もしこれが千秋楽で休場して初優勝を飾ったとしてもここまで人の心を動かすことはなかったのではないだろうか。自分としては尊富士の来場所以降の活躍も期待し、応援したいとも思っている。

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